レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)のギタリスト、ジョン・フルシアンテ。クリーンは繊細で、クランチはエモーショナル、リードは泣きまくり。使用機材は意外とシンプルなのに、なぜあれほど心に刺さるのか──多くのギタリストが一度は沼にハマるサウンドです。
この特集では、主に「Californication〜By The Way〜Stadium Arcadium 期」を中心に、次のようなテーマで整理していきます。
- ジョン・フルシアンテが実際に使ってきた代表的なエフェクター
- そのサウンドのどこが“フルシアンテっぽい”のか
- 手持ち機材+いくつかのペダルで近づくためのボード構成
- つまみ設定の方向性と、コピーの実践ポイント
すべて同じヴィンテージ機材を揃える必要はありません。サウンドの「系統」と「使い方」を押さえれば、今のボードでも十分“フルシアンテ寄り”の方向に持っていくことができます。
1. ジョン・フルシアンテのサウンドの全体像
まず個々のペダルに入る前に、フルシアンテの「サウンドコンセプト」をざっくり整理しておきます。彼のギターサウンドは、大きく次の三本柱で構成されています。
- ストラト系ギター(ヴィンテージ Fender Stratocaster を中心に複数本)
- クリーン〜ライトクランチにセッティングしたアンプ
- その手前で押し出しや色付けを行うエフェクター(OD/DS/コーラス/ディレイ/ワウ など)
ここで重要なのが「アンプの役割分担」です。歪みの土台になっているのは基本的に Marshall のアンプですが、リバーブだけは Fender のヴィンテージコンボアンプを“リバーブ専用機”として立てているケースが多いと言われています。イメージとしては「メインのドライブサウンド=Marshall」「空間の奥行き感=Fender のスプリングリバーブ」という二段構えです。
ギターとアンプはライブ会場や時期による変動が大きい部分ですが、エフェクターは後から足していきやすい領域です。特に次のポイントを押さえると、「フルシアンテっぽさ」に一気に近づきます。
- 歪みは“超ハイゲイン”ではなく、クランチ〜中程度のゲイン
- クリーンはきれいに鳴らした上で、うっすらモジュレーション+空間系を乗せる
- ギターのボリュームとピッキングニュアンスで、クリーン〜クランチを行き来する
この土台を頭に入れたうえで、実際に使用されているエフェクターを見ていきましょう。
2. 実際の使用エフェクターと“フルシアンテ感”の正体
細かいボード構成や年代ごとの差はありますが、代表的なペダルを役割ごとに整理すると、次のようなイメージになります。
2-1. 歪みの中核:BOSS DS-2 Turbo Distortion
- BOSS DS-2 Turbo Distortion
フルシアンテの歪みの代名詞とも言えるのが、この DS-2 です。アンプをクランチ寄りにセッティングし、DS-2 で一段押し出すことで、次のようなキャラクターを両立させています。
- コードを弾いたときのザラっとしたロック感
- 単音リードでの伸びやすさと歌心
TURBO I をメインにしつつ、曲によって TURBO II を使い分けることでも知られています。イメージとしては“歪みペダルで音を作る”というより「アンプの良いところを押し出すブースター寄りのディストーション」です。
年代によっては BOSS DS-1 も併用されており、よりラフなディストーション感が欲しい場面で使われていたと言われています。DS-1 の荒々しさと DS-2 の押し出しの強さをどう切り替えるか、という視点で聴き比べると整理しやすいです。
2-2. クリーンの決め手:BOSS CE-1 / CE-2 系コーラス
- BOSS CE-1 Chorus Ensemble(ヴィンテージ)
- 同系統のコーラス/ディメンションペダル
「Under The Bridge」をはじめとする透明感のあるクリーントーンの裏側には、フルシアンテが愛してやまない BOSS CE-1 というペダルの存在があります。主な役割は次のようなイメージです。
- クリーン〜ごく軽いクランチに、うっすらとしたコーラスを足す
- 一部の曲でビブラート寄りの揺れを加える
- JC-120 などとの組み合わせで、ステレオ的な広がりを作る
理想は BOSS CE-1 そのものを使うことですが、ヴィンテージのため入手難易度はかなり高めです。現行ペダルで近いテイストを狙うなら、次のような“BOSS コーラス系”を薄めのセッティングで使うと方向性が近づきます。
- BOSS CE-2W(Waza Craft)
- BOSS CH-1 Super Chorus
- BOSS DC-2W Dimension C
2-3. ほぼ代名詞のワウ:Ibanez WH10
- Ibanez WH10(オリジナル/V2)
フルシアンテのワウといえば Ibanez WH10。グレー筐体の初期個体や V2 のリイシューなど、複数バージョンを使い分けています。代表的な特徴は次のとおりです。
- ワイドレンジに動く、中域のクセのあるカーブ
- クリーン〜軽いクランチにかけたときの“前に出る”うねり
- リフやカッティングがフレーズごとに表情を変えるようなノリ
完全に同じワウを用意できなくても、次のポイントを意識するだけでニュアンスはかなり近づきます。
- クリーン〜クランチに合わせて使う
- 踏み切り/かかと側に固定気味にして“中域を動かす EQ 的な使い方”も混ぜる
2-4. ディレイ&ルーパー:Line 6 DL4 + BOSS DD シリーズ
- Line 6 DL4 Delay Modeler
- BOSS DD-2 / DD-3 / DD-6 などのデジタルディレイ
By the Way 期のライブ映像で印象的なのが、緑の筐体の Line 6 DL4 です。ディレイとしてだけでなく、ルーパーとしてもガッツリ活用されています。主な役割は次のとおりです。
- ショート〜ミドルディレイでリードに奥行きを足す
- 長めのディレイでアンビエントな空間を作る
- ルーパーでフレーズを重ね、ライブで厚みを出す
など、多用途の“空間系マルチ”という位置づけです。
一方で、よりシンプルなディレイとして BOSS DD シリーズも使われており、「普通のソロ用ディレイ:DD」「特殊効果・ループ:DL4」と役割分担していた時期もあります。
2.5 リバーブ:Electro-Harmonix Holy Grail + Fender リバーブアンプ
- Electro-Harmonix Holy Grail Reverb
- Fender製ヴィンテージアンプのスプリングリバーブ(Twin Reverb など)
ジョン・フルシアンテのサウンドで少しややこしいのが、「歪みのメインは Marshall だが、リバーブ成分は Fender 系アンプの影響が大きい」という点です。ライブやスタジオでのセッティングでは次のような役割分担がよく語られます。
- 歪み・音圧の土台:Marshall のスタック
- クリーン〜リバーブ感:Fender のヴィンテージアンプ
- さらに必要に応じてペダルリバーブ(Holy Grail)で“足しリバーブ”
Holy Grail 自体は、アンプのスプリングリバーブを拡張するための「追加リバーブ」として使われることが多く、以下のような役割を担っています。
- クリーントーンに、プレート寄りのなめらかな残響を足す
- ディレイと組み合わせて、アンビエント寄りの空間を作る
- レンジの広いクリーンアルペジオを、奥行きのあるサウンドに仕上げる
あくまで“濡れすぎない”セッティングが基本で、リバーブが主張するというより、後ろで空気感を支えるイメージです。自宅やスタジオで再現する場合は、以下のようなポイントを抑えると、フルシアンテらしい「クリーンなのに奥行きがある」質感に近づきやすくなります。
- アンプ側にしっかりしたスプリングリバーブがある → アンプのリバーブをうっすら(9〜10時程度)
- Marshall系などリバーブ無しのアンプ → Holy Grail などペダルリバーブを「薄くかけっぱなし」
2-6. 補助ドライブ/ブースト/ファズ
代表的なものとして、次のようなペダルが挙げられます。
- MXR Micro Amp(クリーンブースト)
- TS 系オーバードライブ(ブースト用途)
- Electro-Harmonix Big Muff(太いリード/壁サウンド)
- BOSS BF-2 Flanger などのモジュレーション
- Moog Moogerfooger 系(後期の変態系フィルター/モジュレーション)
クリーンブースターを常時オン気味にしつつ、DS-2 などの歪みと組み合わせて音量とパンチをコントロールする使い方がよく見られます。
ビッグマフやMoog系は、より実験的・過激なサウンドを求める曲やセクションで登場する“飛び道具枠”と考えると分かりやすいです。
3. 時期別“代表的ボード像”のイメージ
実際のボードはツアーごとに細かく変化していますが、コピーやボード設計の参考になるよう、ざっくりとしたモデルケースとして整理してみます。
3-1. Californication〜By The Way 期
- Wah:Ibanez WH10
- 歪み:BOSS DS-2、BOSS DS-1
- クリーンブースト:MXR Micro Amp(使用例あり)
- コーラス:BOSS CE-1
- ディレイ:BOSS DD シリーズ
- リバーブ:アンプ側リバーブ+必要に応じてペダル
この時期の特徴は、以下のようなバランスです。
- 歪み量はミドルゲインまで(歪ませ過ぎない)
- クリーンが非常にきれいで、コーラスは薄め
- ディレイは控えめに、奥行き付けとして使う
3-2. Stadium Arcadium 期
- Wah:Ibanez WH10(オリジナル/V2)
- コンプレッサー/ブースター:MXR Micro Amp など
- 歪み:BOSS DS-2
- コーラス:BOSS CE-1 / CE-2 系
- ディレイ①:BOSS DD シリーズ
- ディレイ②/ルーパー:Line 6 DL4
- ファズ/変態枠:Big Muff、Moog 系
この頃になると、以下のようなスタイルが見えてきます。
- ルーパーを使ったフレーズ重ね
- 長めのディレイや特殊系エフェクト
- それでも根本は“クリーン+クランチ+シンプルなリード”
4. フルシアンテ風ボード構成プラン(3パターン)
ここからは、実際にボードを組むときの具体例として、以下の3パターンで構成案を紹介します。
- 最低限セット
- 標準セット
- 本気セット
4-1. 最低限セット(3〜4台)
まずは「これだけあれば、かなりそれっぽく遊べる」ミニマム構成。
- Wah:Ibanez WH10
- メイン歪み:BOSS DS-2 Turbo Distortion
- コーラス:BOSS CE-2W など BOSS コーラス系
- ディレイ:BOSS DD シリーズ、または Line 6 DL4
運用イメージはシンプルです。
- クリーン:アンプ+うっすらコーラス
- 歪み:DS-2 をオン(歪ませ過ぎない)
- ソロ:DS-2+ディレイ
- 要所でワウを踏んでニュアンスを付ける
ここまでで、代表的な曲の雰囲気はかなり出せます。
4-2. 標準セット(5〜7台)
もう少し本格的に寄せていきたい場合のプランです。
- コンプレッサー:クリーンの粒立ちとサステインを軽く整える
- Wah:Ibanez WH10
- クリーンブースト/サブドライブ:TS 系 OD や MXR Micro Amp
- メイン歪み:BOSS DS-2
- コーラス:BOSS CE-2W / CH-1 / DC-2W など
- ディレイ/ルーパー:Line 6 DL4
- 追加ディレイ:BOSS DD シリーズ
この構成になると、
- クリーン:コンプ+コーラス
- クランチ:クリーンブースト+アンプ
- リード:クランチ+DS-2+ディレイ
- 飛び道具/ループ:DL4
のように役割分担が明確になります。
4-3. 本気セット(8〜10台)
「ボードごとジョン・フルシアンテ研究専用にしたい」という人向けの構成です。
- チューナー(BOSS TU-3 など)
- コンプレッサー
- Wah(Ibanez WH10)
- クリーンブースト(MXR Micro Amp)
- サブドライブ(TS9/TS808など)
- メイン歪み(BOSS DS-2)
- ファズ枠(Electro-Harmonix Big Muff など)
- コーラス(CE-2W/DC-2W 等)
- リバーブ(Electro-Harmonix Holy Grail)
- ディレイ/ルーパー(Line 6 DL4)
ここまで揃えると、Californication〜Stadium Arcadium 期のサウンドだけでなく、フルシアンテ以外の現場にも流用しやすい“万能ボード”としても運用できます。
5. つまみ設定の方向性(“フルシアンテ寄り”のスタート値)
個々の環境によって最適値は変わりますが、フルシアンテ系サウンドに寄せるうえでの「スタート地点」をいくつか挙げておきます。
5-1. メイン歪み:BOSS DS-2
- LEVEL:12〜13時(バイパスより少し上)
- TONE:11〜12時(耳に痛くならない範囲)
- DIST:11〜13時(ミドルゲイン)
- MODE:TURBO I からスタート
ポイントは、「歪ませ過ぎない」ことです。アンプ側をクリーン〜軽いクランチにしておき、DS-2 はあくまで“押し出す役”として使うと、一気にフルシアンテ寄りになります。
5-2. コーラス(CE-2W/CH-1 など)
- RATE:9〜10時(ゆっくり)
- DEPTH:11〜12時(薄め〜中程度)
- MIX / E.LEVEL:10〜11時(原音より控えめ)
単体で弾くと「ちょっと薄いかな?」と感じるくらいが、バンドアンサンブルではちょうど良くなります。
5-3. ディレイ(DD シリーズ/DL4)
- ディレイタイム:400〜600ms 前後(曲のテンポに合わせて)
- フィードバック:2〜4 回程度
- ミックス:9〜11時(うっすら)
ソロでは少しミックスを上げても良いですが、基本的には「奥に回す」イメージで調整すると、歌や他の楽器を邪魔しません。
5-4. Wah(Ibanez WH10)
- 常に全開/全戻しではなく、中間~やや踏み込みあたりを多用
- クリーン〜軽いクランチに合わせて、中域が歌うポイントを探す
ワウを「オンにしたら踏み切りまで踏む」のではなく、EQ 的に“おいしい位置に固定する”使い方を混ぜると、一気にフルシアンテ感が増します。
6. これで君も“フルシアンテ系”だ:現実的コピー戦略
機材を揃えたあとに大事なのは、「どんな順番で慣れていくか」です。いきなり全部を一度に再現しようとせず、ステップを踏んで段階的にフルシアンテ度を上げていくイメージで進めていきましょう。
ステップ1:クリーンとクランチだけで数曲通す
まずは歪みペダルを DS-2 ひとつに絞り、クリーンとクランチだけで代表曲を何曲か通してみます。構成は「クリーン=アンプ+薄いコーラス」「クランチ/リード=アンプ+DS-2」というシンプルな二本立てで十分です。ここでは音作りをいじり倒すのではなく、自分の環境での“基準サウンド”を固めることが目的です。
弾きながら、「歪みが暴れていると感じたら DIST を少し戻す」「抜けが悪いと感じたら TONE を少しずつ左右に振ってみる」「クリーンがバンドに埋もれるようならコーラスやディレイの量を控えめにする」といった微調整を繰り返し、自分なりのニュートラルポジションを探っていきます。
ステップ2:ギター側のボリュームとピッキングで表情を作る
基準サウンドが決まったら、同じセッティングのまま、ギターのボリュームとピッキングだけでどこまで表情を付けられるかを徹底的に練習します。
サビやソロなど感情を爆発させたい場面ではボリューム10にしてしっかりピッキング、バースやアルペジオではボリューム7〜8あたりに絞って力を抜き気味に弾く、といった使い分けを体に染み込ませていきます。機材を買い足すより、ここをやり込んだほうが“フルシアンテっぽさ”は一気に増します。
ステップ3:ワウとディレイで“飛び道具”を足していく
クリーンとクランチだけで安定して弾けるようになったら、最後に色付け用のペダルを足します。Ibanez WH10 のワウは、常に踏み切るのではなく、中間あたりで止めてミドルを持ち上げる EQ 的な使い方も試してみると、リフやカッティングのニュアンスが一気にフルシアンテ寄りになります。
Line 6 DL4 などのディレイ/ルーパーは、最初は「ここぞ」というフレーズだけに使うのがおすすめです。1曲の中のワンポイントから始めて、慣れてきたらロングディレイやループを使ったフレーズ重ねに挑戦していくと、破綻しにくく少しずつスケールアップしていけます。
7. まとめ|“フルシアンテ系”サウンドに近づくために
フルシアンテのペダルボードは年々膨大なサイズになっていますが、そのサウンドの軸は、ストラト系ギターとクリーン寄りのアンプ、その前段に置かれた少数精鋭のエフェクターというシンプルな土台の上に成り立っています。
歪みは BOSS DS-2 を中心に、クランチ〜ミドルゲインでアンプを押し出す使い方が基本です。クリーンは CE-1 系コーラスをうっすら乗せ、ディレイは前に出しすぎず“奥に回す”イメージで薄くかけると、あの立体感に近づきます。Ibanez WH10 のワウは、リフやカッティングにしゃべるような表情を与える“声”のような存在で、踏み方次第でサウンドのキャラクターが大きく変わります。
とはいえ、もっとも重要なのは機材そのものよりも、ギターのボリュームとピッキングの強弱でクリーン〜クランチを自在に行き来するプレイスタイルです。エフェクターをすべて同じモデルで揃えることがゴールではなく、フルシアンテと同じ考え方でボードを組み、演奏のアプローチまで含めて寄せていくことが、本当の意味での“フルシアンテ系”への近道と言えます。
手元にあるペダルでも工夫できる余地はたくさんあります。この記事を参考にしながら、自分のボードと弾き方を少しずつチューニングして、“あの感じ”に近づいていってください。