エレキギターの歴史を語る上で、絶対に避けては通れない存在、ジミ・ヘンドリクス(Jimi Hendrix)。「ストラトキャスター+マーシャル」というロックの黄金比を確立し、エフェクターという概念を楽器の一部へと昇華させたパイオニア。彼がこの世を去って半世紀以上が経ちますが、そのサウンドはいまだに多くのギタリストにとって到達不能な「聖域」として君臨しています。
この特集では、主に「Are You Experienced?〜Electric Ladyland〜Band of Gypsys 期」を中心に、次のようなテーマで整理していきます。
- ジミ・ヘンドリクスが実際に使っていた代表的なエフェクター
- そのサウンドのどこが“ジミヘン感”を生んでいるのか
- 現代の機材で寄せるためのボード構成アイデア
- つまみ設定と、コピーの実践ステップ
オリジナルのヴィンテージ機材をすべて集める必要はありません。サウンドの「骨格」と「使い方」の考え方を押さえれば、今のボードでも十分“ジミヘン寄り”の方向に持っていくことができます。
1. ジミ・ヘンドリクスのサウンドの全体像
まず個々のペダルに入る前に、ジミヘンの「サウンドコンセプト」をざっくり整理しておきます。彼のギターサウンドは、大きく次の三本柱です。
- ストラト系ギター(右利き用の Stratocaster を逆さ持ち)
- Marshall 系スタックアンプを中心とした、大音量のチューブアンプ
- その前段に置かれたシンプルなエフェクター群(ワウ/ファズ/オクターブファズ/ユニヴァイブ など)
アンプは Marshall Super Lead 100W + 4×12 キャビ が代表的で、ほぼ常時「爆音クランチ〜ハイゲイン手前」くらいまで追い込まれています。そこにギター側ボリュームとペダルの ON/OFF で表情を付けていく、というのが基本方針です。
ここで重要なのが 「ギターのボリューム操作」が音作りの中心 になっている点です。
- ボリューム 10:アンプ+ファズで、暴れるリードトーン
- ボリューム 6〜7:同じセッティングのまま、クランチ寄りのコードバッキング
- ボリューム 3〜5:ほぼクリーン〜ちょい汚れのアルペジオ
ペダルはあくまで「アンプをどう押し出すか」「どの帯域を強調するか」を決めるツールであり、音色の切り替えはギター側のボリュームとピッキングで行う──という思想で組まれています。
この土台を頭に入れたうえで、実際に使用されているエフェクターを見ていきましょう。
2. 実際の使用エフェクターと“ジミヘン感”の正体
細かいボード構成や年代ごとの差はありますが、代表的なペダルを役割ごとに整理すると、次のようなイメージになります。
2-1. サウンドの中核:Fuzz Face(ファズフェイス)
- Dallas Arbiter Fuzz Face(ゲルマニウム/シリコン両方の時期あり)
ジミヘンといえばまずこれ、というほど象徴的なのが Fuzz Face です。
アンプをすでに歪ませた状態で、さらに前段から押し込むことで、次のようなキャラクターを作っています。
- ロー〜ミッドが太く、「塊」で飛んでくるリードトーン
- ギター側ボリュームを絞ると、クランチ〜クリーンまで一気に表情が変わる
- 和音でも潰れすぎず、コード感がギリギリ残る“ギリギリの暴れ方”
Fuzz Face は単体で聴くと扱いづらいペダルですが、 「アンプ側もかなり歪んでいる」 前提で使うと一気に活きてきます。ジミヘンはライブではほとんど常時ファズを ON にしたまま、ボリュームだけでクリーン〜リードを行き来していたと言われます。
現行ペダルで近いコンセプトを狙うなら、以下のような“Fuzz Face 系ファズ”が候補に上がります。
- Dunlop Fuzz Face Mini / Hendrix Fuzz Face 系
- Roger Mayer Axis Fuzz など、“ジミヘン系”をうたうモデル群
いずれも 「ギター側ボリュームを絞ったときにどう鳴るか」 を基準に選ぶのがおすすめです。
2-2. うねるオクターブ:Octavia(オクターブファズ)
- Roger Mayer Octavia(オクターブファズ)
「Purple Haze」「Who Knows」「Machine Gun」などで聴ける、“上にオクターブが乗ったような”リードトーンの正体がこの Octavia 系ペダルです。
主な役割は次のとおり。
- ブリッジ寄りのピッキングで、硬質なオクターブ成分を強調
- 12フレット付近の単音リードで、シンセのような不思議な倍音感
- ファズと違い、音程感がくっきり残るため、印象的なソロフレーズ向き
実際には Fuzz Face と組み合わせたり、曲の一部だけに使うなど、“飛び道具枠”としての登場が多いです。現代のボードでは「常時は Fuzz Face 系」「ここぞというところで Octavia 系」という役割分担にすると扱いやすくなります。
2-3. ほぼ代名詞のワウ:Vox/Cry Baby 系 Wah
- Vox V846(代表的な使用モデル)
「Voodoo Child (Slight Return)」「Up From The Skies」など、ジミヘンのワウプレイはギター史にそのまま載るレベルの存在感です。代表的な特徴は次のとおりです。
- 深く踏み込んだときの鋭いハイと、戻したときの太いローミッドのコントラスト
- いわゆる“ワウワウ”だけでなく、半止めにして EQ 的に使う場面が多い
- クリーン〜軽いクランチ〜ファズまで、どの状態にも重ねて使う
ポイントは、 「踏み切る/戻すの 2 択ではなく、中間ポジションを多用する」 ことです。ワウのストロークをフレーズの一部として組み込むことで、“しゃべるような”ニュアンスが生まれます。
現行機種では、以下のようなワウがジミヘン系の文脈でよく使われます。
- Jim Dunlop Cry Baby 系(JH-1 などジミヘンモデルを含む)
- Vox V845/V847 系のクラシック寄りワウ
2-4. 揺れる空間:Uni-Vibe(ユニヴァイブ)
- Shin-ei / Univox Uni-Vibe(オリジナル)
ウッドストックや「Machine Gun」などで聴ける、“回転するような”揺れと奥行きを生むのが Uni-Vibe です。本来は Leslie スピーカーを模したモジュレーションですが、フェイザーともコーラスとも違う独特の質感を持っています。主な役割は次のとおりです。
- クリーン〜クランチにうっすらかけて、サイケデリックな奥行きを追加
- ファズと組み合わせて、轟音の海の中に周期的なうねりを生む
- コーラスと違い、音程はあくまで芯が残りつつ“揺らぐ”
オリジナルはヴィンテージ機材として非常に高価ですが、Dunlop Jimi Hendrix Uni-Vibe など、ジミヘン系を意識した現行ペダルも多数リリースされています。
2.5 そのほかの補助ペダル/関連機材
ジミヘンのペダルは意外と少数精鋭ですが、サウンド作りの補助として次のような要素も押さえておきたいところです。
- 軽いディレイ/リバーブ:当時はテープエコーやアンプリバーブが中心
- ブースト系:クリーンブースター/トレブルブースト的な使われ方をした説もあり
- チューナー:当然ながら現代ではボード先頭に配置推奨
とはいえ、本質は「ワウ+ファズ+ユニヴァイブ+オクターブファズ」 の4本柱です。
この4種の使い分けと、アンプ/ギター操作の組み合わせが“ジミヘン感”の大半を占めています。
3. 時期別“代表的ボード像”のイメージ
厳密な答え合わせは不可能ですが、ライブ映像や写真から推定される「代表的な組み合わせ」を、コピーやボード設計の参考としてざっくり整理してみます。
3-1. 初期〜Are You Experienced? 期
- Wah:まだ使用頻度はそこまで多くない
- ファズ:Fuzz Face がサウンドの主役
- モジュレーション:なし、または軽いアンプ/スタジオリバーブ中心
この時期の特徴は、以下のようなバランスです。
- 歪みのニュアンスは「アンプ+ファズ」がメイン
- クリーンはほぼアンプ直、ボリューム操作で作る
- エフェクトは“使う曲・セクションだけ”に登場
コピーする際は「ギター+ファズ+Marshall 系アンプ(もしくはそのシミュレート)」を中心に組むと雰囲気が出やすい時期です。
3-2. Axis: Bold as Love〜Electric Ladyland 期
- Wah:Vox Wah が積極的に登場
- ファズ:Fuzz Face
- オクターブファズ:Octavia
- モジュレーション:レコーディングではスタジオエフェクトも活用
- Wah + Fuzz のコンビネーションが確立
- Octavia によるリードトーンが楽曲のアイコンになる
- スタジオ作品ではディレイ/リバーブ/テープ処理も多用され、よりサイケ色が強まる
このあたりをコピーする場合、「ファズ+ワウ+オクターブファズ」が一つの目安になります。
3-3. Woodstock〜Band of Gypsys 期
- Wah:Vox Wah
- ファズ:Fuzz Face(赤筐体など複数バージョン)
- ユニヴァイブ:Shin-ei / Univox Uni-Vibe
- オクターブファズ:Octavia(使い分け)
Woodstock では、ギター → Wah → Fuzz → Uni-Vibe → アンプ という並びが定説として語られます。
- Uni-Vibe が常時〜準常時オンで、サウンド全体が“揺れている”
- Band of Gypsys 期はファンク寄りのグルーヴ+ファズが強烈
- ソロだけでなく、リフやカッティングにもファズを積極的に使用
コピー目線では「Wah+Fuzz+Uni-Vibe+Octavia」を中心にした構成を、現代のボードでどう置き換えるかがポイントになります。
4. ジミヘン風ボード構成プラン(3パターン)
ここからは、実際にボードを組むときの具体例として、以下の3パターンで構成案を紹介します。
- 最低限セット
- 標準セット
- 本気セット
4-1. 最低限セット(3〜4台)
まずは「これだけあれば、かなりそれっぽく遊べる」ミニマム構成。
- ファズ:Fuzz Face 系(Dunlop Hendrix Fuzz Face など)
- ワウ:Vox / Cry Baby 系 Wah
- モジュレーション:Uni-Vibe 系 or コーラス/フェイザーのどれか1台
- チューナー:BOSS TU-3 など(ボード運用を考えるなら実質必須)
運用イメージはシンプルです。
- クリーン:アンプ直 or アンプ+薄い Uni-Vibe
- クランチ:アンプをやや歪ませて、ギターボリューム 5〜7
- リード:同じセッティングでボリューム 10 + Fuzz Face
- 要所でワウを踏んでニュアンスを付ける
ここまででも、「Voodoo Child」「Purple Haze」などの雰囲気は十分狙えます。
4-2. 標準セット(5〜7台)
もう少し本格的に寄せていきたい場合のプランです。
- チューナー:BOSS TU-3 など
- Wah:Vox / Cry Baby 系
- Fuzz 1:Fuzz Face 系(メインファズ)
- Fuzz 2 or Octave Fuzz:Octavia 系、Axis Fuzz 系など
- Uni-Vibe 系モジュレーション
- ディレイ:BOSS DD 系/アナログディレイなど
- ブースター:クリーンブースト or トレブルブースト系(任意)
役割分担のイメージ:
- クリーン:アンプ直+必要に応じて Uni-Vibe
- クランチ:アンプの歪み+ギターボリューム操作
- リード A:クランチ+Fuzz Face
- リード B(飛び道具):Fuzz Face or Octavia + Uni-Vibe
- アンビエント:クリーン or ファズ + ディレイ
ロック〜ブルース以外の現場にも流用しつつ、「ここぞ」でジミヘン感を出したい人向けの構成です。
4-3. 本気セット(8〜10台)
「ボードごとジミヘン研究専用にしたい」という人向けの構成です。
- チューナー
- コンプレッサー(軽くかけて粒立ちを整える用途)
- Wah(Vox / Cry Baby 系)
- Fuzz Face 系(ゲルマニウム寄り)
- Fuzz Face 系(シリコン寄り or Axis Fuzz 系)
- Octave Fuzz(Octavia 系)
- Uni-Vibe 系
- ディレイ(アナログ〜デジタル問わず)
- クリーンブースター
- ノイズゲート or バッファ(必要に応じて)
ここまで揃えると、初期から後期までのサウンドに細かく寄せて遊べます。
5. つまみ設定の方向性(“ジミヘン寄り”のスタート値)
個々の環境によって最適値は変わりますが、ジミヘン系サウンドに寄せるうえでの「スタート地点」をいくつか挙げておきます。
5-1. メイン歪み:Fuzz Face 系
- FUZZ:フル(3時〜MAX)
- VOLUME:バイパスより少し上
- ギター側ボリューム:
クリーン〜クランチ:4〜6
リード:8〜10
ポイントは、ペダル側の Fuzz を思い切って上げたうえで、“音量と歪みのコントロールはギター側で行う” ことです。アンプの歪みが足りない場合は、アンプ側のゲインも惜しまず上げてしまったほうが、ジミヘン的な“暴れ方”に近づきます。
5-2. Octavia / オクターブファズ
- FUZZ:2時前後
- LEVEL:バイパスと同程度〜やや大きめ
- TONE(ある場合):12時付近から調整
使い方のポイント:
- FUZZ:2時前後
- LEVEL:バイパスと同程度〜やや大きめ
- TONE(ある場合):12時付近から調整
5-3. Wah(VOX)
- いわゆる“かかり具合”はペダル側で固定(内部トリムなど)
- 実際のプレイでは、かかと側〜半止め〜つま先寄りを行き来
ジミヘンっぽく弾くうえで重要なのは、「ペダルストロークとフレーズのリズムをズラす」 感覚です。
単純に 8 分で上げ下げするのではなく、音符とペダル動作の位置関係を少しずつ変えてみると、いわゆる“喋るワウ”に近づきます。
5-4. Uni-Vibe 系
- SPEED:9〜10時(ゆっくりめ)
- INTENSITY:11〜12時(中程度)
- MIX:原音 6:エフェクト 4 くらいのイメージす
Uni-Vibe はかけ過ぎると“海の中に沈む”ようなサウンドになるため、最初は控えめから始めるのが無難です。「クリーンアルペジオにうっすら」「ファズリードのサビだけ強め」といった具合に、曲の中の“見せ場”を決めてポイント使い していくと破綻しにくくなります。
6. これで君も“ジミヘン系”だ:現実的コピー戦略
機材を揃えたあと、いきなり全部を同時に使いこなそうとすると確実に迷子になります。ここでは、段階的にジミヘン度を上げていくためのステップを整理しておきます。
ステップ1:アンプ+ファズ+ボリューム操作を徹底する
まずは 「ギター+Fuzz Face 系+アンプ」だけ で、代表曲を何曲か通してみます。
- クリーン:アンプクリーン、ギターボリューム 3〜5
- クランチ:同じセッティングでボリューム 6〜7
- リード:ボリューム 8〜10、ピッキングを強めに
この段階では、ワウもユニヴァイブも封印して構いません。
「同じセッティングのまま、どこまでボリュームとピッキングで表情を作れるか」を体に叩き込むことが最優先です。
ステップ2:ワウを“エフェクト”ではなく“楽器”として練習する
次にワウを解禁します。ただしここでも、使い方はあくまで段階的に。
- 半止めで固定して、EQ 的に使う練習をする
- クリーンアルペジオのイントロだけ
- サビ前の 1 フレーズだけ
- 8 分で単純に“ワウワウ”するのではなく、
- フレーズの最初で踏み込んで、そのまま戻す
- 音を伸ばしている間にゆっくり動かす など、いくつかのパターンを試す
- 「Voodoo Child」のイントロだけを、原曲のニュアンスを真似しながら反復
ここでのゴールは、「ワウを踏んでいるときも、右手と左手のことを忘れない」 感覚を身につけることです。
ステップ3:Uni-Vibe と Octavia で“飛び道具”を足す
最後に Uni-Vibe と Octavia を追加します。
ここでも、最初は使いどころをかなり限定したほうが成功しやすいです。
- Uni-Vibe:
- クリーンアルペジオのイントロだけ
- サビ前の 1 フレーズだけ
- Octavia:
- ソロの最後の 1〜2 フレーズだけ
- ブリッジセクションの“叫び”のようなフレーズだけ
「曲の中で 1〜2 回だけ使う」くらいのつもりで始め、慣れてきたら徐々に出番を増やす、という順番が安全です。
7. まとめ|“ジミヘン系”サウンドに近づくために
ジミ・ヘンドリクスのサウンドは、派手な印象とは裏腹に、構造自体は非常にシンプルです。
- 右利き用 Stratocaster を逆さに構えたギター
- 爆音の Marshall スタックアンプ
- その前に置かれた、ワウ+Fuzz Face+Octavia+Uni-Vibe 程度の少数精鋭ペダル
エフェクター単体のキャラクターももちろん重要ですが、何より大切なのは次の 3 点です。
- ギターのボリュームでクリーン〜リードまで作り分ける習慣をつけること
- ワウと Uni-Vibe の「動かし方」を、フレーズの一部として体に染み込ませること
- ファズは“暴れるもの”だと割り切り、アンプも含めてトータルで鳴らし方を探ること
いま手元にあるペダルでも、工夫次第で“ジミヘンっぽさ”を出せる余地はたくさんあります。この記事を参考にしながら、自分のボードと弾き方を少しずつチューニングしていって、「あ、この感じだ」というポイントを探ってみてください。